岩手県遠野「いのちを還す森」 いつか自分が眠る森の風景をつくる

遠野の美しい森を維持しながら、未来に受け渡していく
「日本の原風景」と呼べる景観が広がる岩手県・遠野市。民俗学者である柳田國男の「遠野物語」にも描かれた民話のふるさととしても有名です。市内には、河童が棲むと言われるカッパ淵など「遠野物語」ゆかりのスポットをはじめ、遠野らしい観光スポットが点在しています。
馬の産地としても知られる荒川高原をはじめ、風光明媚な景色が残されていることも魅力であり、多くの観光客が訪れるとともに、豊かな自然を求める人たちから移住先としても注目される地域です。
そうした日本の美しい原風景を守り、新しい埋葬や生き方の形を模索しているのがハヤチネンダの「いのちを還す森」埋葬プロジェクト。墓石の替わりに樹木を植える一般的な樹木葬とは異なり、豊かな森を維持し続けることで、美しい風景を未来に受け渡していくことを目的としています。



遠野の豊かな森で眠り、森の一部になっていく

樹木葬墓地は寺社の敷地内や墓地に開設されるケースが多い一方、「いのちを還す森」埋葬プロジェクトは岩手県・遠野市の美しい森を守り、次世代に引き継いでいくことを目的としてスタートしました。
遠野盆地の北側に位置し、広葉樹を主とする里山の一角に位置する「いのちを還す森」は、周囲で馬の放牧等も行われる自然豊かな場所。かつては薪炭林として利用されていた森を維持していくために、駒形神社を事業主体として、一般財団法人ハヤチネンダが運営しています。
ハヤチネンダとは?
「いのちを還す森」埋葬プロジェクトを運営する一般財団法人ハヤチネンダは、中山間部と都市部を結び、「いのちと自然の物語をつむぎ直す」ことをテーマに活動している団体です。
ハヤチネンダの名称は、北上山地の最高峰、早池峰山の「ハヤチネ」と、遠野弁で納得や了解の意味を持つ「ンダ」をつなげた造語。早池峰は、宮沢賢治が「銀河の森の中心」と詠んだ特別な山であり、古くから人々の信仰の対象でもありました。
埋葬にあたっては、石の墓碑や墓標は設置せず、粉末化された遺骨を直接土に混ぜ、森の中に埋葬します。豊かな森の中で眠り、森の一部になっていく。従来の樹木葬とは一線を画す、ドイツの森を墓地として利用する発想に近いプロジェクトです。
また、生前から仲間とともに手作業で定期的に森を整備し、いつか自分が永眠する森を育てながら維持していけることも特徴です。
アクセス情報
住所:岩手県遠野市附馬牛(つきもうし)町上附馬牛第14地割79
車でのアクセス
遠野市中心部から約25分(14km)
いわて花巻空港、新花巻駅から約60分(50km)
電車でのアクセス
JR釜石線 遠野駅から車で約20分
現地説明会
遠野駅から送迎有 ※見学会時やイベント時。要事前予約
「遠野 現地見学会」1日目レポート JR遠野駅に集合
東洋経済ONLINEに掲載された
「死ぬのが楽しみに」ふるさと難民が森で得た希望

という記事が気になり、「いのちを還す森」を管理する
ハヤチネンダ主催のオンライン説明会に参加。
関東では見られない、「自然の森の中に埋葬する樹木葬」という点に
興味を持ち、岩手県遠野市で開催されている現地説明会に参加することにしました。
「遠野 現地見学会」は、東京から日帰りで行ける日程と、
1泊2日で馬事体験や森を整備する活動に参加できる日程があります。
13時過ぎにJR釜石線 遠野駅に集合

東京駅から東北新幹線やまびこに乗り、新花巻駅へ。
ローカル線の釜石線に乗り換え、岩手の自然豊かな
景色を眺めながら50分弱の乗車で、遠野駅へ到着。
釜石線は、本数が数時間に1本と少ないため
乗り遅れには注意が必要です。
遠野駅に集合してからは、ハヤチネンダの方が運転する車に乗り、
「いのちを還す森」の近くにある「クイーンズメドウ・カントリーハウス」へ。
遠野駅からは約14km、車で20分ほどの距離です。
馬と共に暮らすクイーンズメドウ・カントリーハウスに到着

ハヤチネンダの遠野現地パートナーである、農業法人ノースが運営する
クイーンズメドウ・カントリーハウスに到着。
クイーンズメドウ・カントリーハウスは、豊かな森と牧草地に馬たち(ハフリンガー種)が放牧され、馬と共に遠野の美しい森の中で過ごせる施設です。
「いのちを還す森」は、農業法人ノースが持つ広大な森の中の一角に
開かれた樹木葬墓地であるため、見学会や森をつくる「森入り」などの
活動に際には、同施設を利用します。

宿泊施設でもあるクイーンズメドウ・カントリーハウスには
心地よい土間や食事を楽しめるスペースがあります。
土間にあるテーブルで遠野の歴史や
「いのちを還す森」の簡単な説明を受けた後、
周辺散策と墓域の見学へ向かいます。
「いのちを還す森」の周辺散策と墓域の見学

今井代表の案内で、クイーンズメドウ・カントリーハウス周辺を徒歩で散策しました。
駒形神社

ハヤチネンダの埋葬プロジェクト「いのちを還す森」の事業主体である、宗教法人駒形神社の元宮へ。クイーンズメドウ・カントリーハウスから徒歩3分の位置にあります。
歴史のある駒形神社には奥宮、元宮、里宮があり、遠野市による遠野遺産56号として、また、文化庁による重要文化的景観にも選定される貴重な文化遺産です。元宮に祀られる杉の大樹は、樹齢500年とも600年とも言われているそうです。
アオゲラホール(多目的ホール)

クイーンズメドウ・カントリーハウス敷地内にある、「アオゲラホール(多目的ホール)」へ。アオゲラホール(多目的ホール)は、日本にだけ暮らすキツツキであるアオゲラが空けた壁の穴を、青いガラスでふさいだ美しいホールです。
お弔いをお希望の方は、駒形神社による御霊移しの神葬祭をアオゲラホールで執り行います。
車に乗り、「いのちを還す森」墓域へ
クイーンズメドウ・カントリーハウスから車に乗って林道を走り、「いのちを還す森」墓域へ移動。山道を30分ほどハイキングしながら、墓域へ行くルートもあるそうです。

この日は、ハヤチネ山ノ上倶楽部の森をつくる「森入リ」の活動で、駐車スペースを拡張する作業をしていました。メンバーの皆さんが楽しそうに作業をしている姿は印象的でした。

駐車スペースから、200mほど歩いて墓域へ。自然な中に何も置かずに埋葬されるため、本来の森の姿がそこにはありました。墓石の替わりに樹木を植える里山型の樹木葬とも違う、最も自然に近い樹木葬と言えるでしょう。

墓域見学の後は階段を少し上り、岩手の霊峰・早池峰を臨む丘へ。開けた空間には丸太のイスが置かれており、天気の良い日は早池峰を眺めることができます。テラスと呼ばれているこの空間も、「森入リ」の活動で造られた場所です。
お茶っこの時間
墓域見学の後は、クイーンズメドウ・カントリーハウスの土間に戻り、お茶っこの時間。東北地方には、お茶を飲みながら話を咲かせる「お茶っこ」という文化があり、ハヤチネンダではそうした心豊かな時間を大切にしています。
ハヤチネンダには自然や森づくりを愛する人が集まっているため、堅苦しい雰囲気がなく、初対面でも話しやすいのは魅力だと感じました。お茶を飲んで雑談をしながら、気になることがあれば気軽に相談することができます。
日帰り見学会はJR遠野駅で解散
お茶っこの時間の後は、電車の時間に合わせて、車でJR遠野駅に移動し解散となります。
ハヤチネンダの現地見学会は日帰りの見学会に加え、費用は別途になりますが「森入り」等に参加できる宿泊オプションもあります。今回は「せっかく東京から遠野まで行くので、自然散策もしたい」と思い、1泊2日の見学会に参加させていただきました。
現地見学会のレポートは、樹木葬レポート「いのちを還す森」 現地見学会〈後編〉に続きます。
「いのちを還す森」の埋葬法
ハヤチネ山系の南麓に位置する17,000㎡の「いのちを還す森」にある墓域に埋葬されます。
カエデ・コナラなどの広葉樹が植林された森は美しく、都会では出会えない景色が広がる場所です。
埋葬法

没後は駒形神社により神葬祭が行われ、以後は永代祭祀(供養)となります。作成された霊璽※はご遺族にお送りするか、駒形神社の里宮にて祀られます。
※霊璽(れいじ)は、神道において故人の御霊を移したものです。仏式における位牌にあたるものです。

お骨を粉骨して、丁寧に「いのちを還す森」の土と混ぜ、森の中の心地よい場所に掘られた穴に埋葬されます。ハヤチネンダにお骨を送り埋葬していただくことも、現地で立ち会うことも可能です。
自然な森を未来につなぐために墓標などの人工物は置かず、埋葬した場所の座標はデジタルで管理されます。埋められたお骨はやがて自然に還り、別のいのちに取り込まれ、遠野の風景の一部となっていきます。
費用
埋葬申込費用および活動賛助金 800,000円(税込)
永代祭祀料 150,000円
※没後の神葬祭、霊璽(れいじ)を含みます。
※過去の宗教宗派は問いません。
お手元で供養されているご親族のご遺骨を埋葬したい、ペットなど伴侶動物のお骨を先に埋葬したいとお考えの方も、ご自身の埋葬契約と同時に申し込むことができます。
月3,000円の会費による納付も可能

里山と街場を結び、会員の居場所をつくることを目的としたメンバーシップ「ハヤチネ山ノ上倶楽部」の月会費を納付することで、埋葬申込費用に充てることも可能です。
※月3,000円の会費を22年3カ月分納付が必要となります。