近年では、墓石を立てての良く知られている埋葬方法以外にも様々な選択肢があります。
「お墓が遠方にあって、もう何年もお参りできていない・・・」
「自分の代はいいけれど、子どもに管理を負わせたくない」
こうした理由から、いま「墓じまい」を選ぶ方が増えています。墓じまいとは、今あるお墓を撤去して更地にし、納められていたご遺骨を別の場所へ移すことをいいます。
ただ、墓じまいは「お墓を片づける」だけの作業ではありません。行政の手続きが必要で、親族やお寺との関係も関わってきます。そして何より、一度進めてしまうと元に戻せない部分があるという点が、他の相続関連の手続きと大きく違うところです。
ここでは、実際にトラブルになりやすい5つのポイントを整理します。
遺骨を移すには「改葬許可」がいる
ご遺骨は、家族のものであっても自由に動かせるわけではありません。墓地埋葬法という法律により、別の場所へ移すには現在のお墓がある市区町村から「改葬許可証」を受ける必要があります。
申請には、次の書類が必要になるのが一般的です。
・改葬許可申請書(市区町村の窓口やホームページで入手)
・埋葬証明書(今のお墓の管理者に発行してもらう)
・受入証明書(新しい納骨先に発行してもらう)
許可は原則としてご遺骨1体につき1通です。古いお墓では、想定より多くの方が納められていたというケースも珍しくありません。
なお、許可を受けずに勝手にご遺骨を取り出す行為は法律違反にあたります。「自分の家のお墓だから」という感覚で進めてしまわないよう、まず市区町村の窓口に確認してください。
新しい供養先を「先に」決める
意外な落とし穴がここです。
改葬許可には新しい納骨先の受入証明書が必要なので、移す先が決まっていないと手続きそのものが始められません。「まずお墓を撤去してから、ゆっくり次を探そう」という順番にはできない仕組みになっています。
移し先の選択肢には、永代供養墓、納骨堂、樹木葬、手元供養、散骨などがあります。それぞれ費用も管理の考え方も違うので、時間をかけて比較する価値があります。
このとき特に注意していただきたいのが合祀(ごうし)です。合祀は他の方のご遺骨と一緒に埋葬する形式で、費用を抑えられる一方、後から「やはり取り出したい」と思っても二度と分けられません。ご家族の中に迷いがある方がいるなら、この点は必ず全員で共有してから決めてください。
散骨を考えている場合は、地域によって条例で場所が制限されていることがあります。自己判断で進める前に確認が必要です。
親族への相談を飛ばさない
法律上、お墓を守る立場(祭祀承継者)の方が判断できることになっています。しかし実務で最も多いトラブルは、法律論ではなく「聞いていなかった」という感情のもつれです。
「勝手に決められた」「先祖に申し訳ない」・・・こうした思いは長く尾を引き、その後の相続の話し合いにまで影響することがあります。
手続きを始める前に、関係するご親族へ理由と方針を説明しておきましょう。日ごろ疎遠な方ほど、事後報告になったときの反発は大きくなりがちです。話がまとまったら、決めた内容を簡単な書面やメールの形で残しておくと、後々の「言った・言わない」を防げます。
お寺・墓地管理者には段階を踏んで相談する
お寺の墓地を離れる際、檀家から離れるということで「離檀料(りだんりょう)」を求められることがあります。
(注意点:仏教界では、離檀料という言葉は用いていないという発信も認められますが、本稿では、分かりやすく伝える意図で、離檀料という言葉を用いています)
これは法律上の支払い義務があるものではなく、長年の供養へのお礼という慣習的な性質のものです。ただ、実際には高額を提示されて話がこじれる例も報道されています。
避けたいのは、ある日突然「墓じまいします」と伝えてしまうことです。これまでの関係があるからこそ、事情(遠方に住んでいる、承継者がいない など)を先に丁寧に伝え、相談という形で切り出すほうが、結果的にお互いに納得できる着地になりやすいものです。
金額の折り合いがどうしてもつかないときは、当事者だけで抱え込まず、第三者や専門家を間に入れることも検討してください。
費用は「工事だけ」ではない
墓じまいにかかるお金は、一つの項目では収まりません。
・墓石の撤去と更地に戻す工事費(お墓の面積、立地、重機が入れるかで変わります)
・行政手続きの費用
・閉眼供養(魂抜き)のお布施
・離檀料
・新しい供養先の費用
工事費は、区画の広さや作業のしやすさで金額が大きく変わります。また、霊園や寺院墓地によっては指定石材店でしか工事ができず、相見積もりが取れないこともあります。
もう一つ知っておきたいのが、すでに支払った永代使用料は原則として戻ってこないという点です。「解約すれば返金される」というものではありません。
見積もりを取る際は、どこまでが含まれる金額なのかを書面で確認しておくと安心です。
最後に
5つのうち、特に取り返しがつかないのは2(合祀の選択)と3(親族への相談)です。書類の不備は後から直せますが、この2つは終わってから悔やんでも戻せません。
墓じまいは、ご先祖を粗末にする行為ではありません。むしろ、誰も管理できなくなって無縁墓になってしまう前に、これからも供養を続けられる形へ移すための選択です。
とはいえ、ご家族の状況やお墓の事情はそれぞれ違います。判断に迷うところがあれば、早めに専門家へご相談されることをお勧めします。










