少子高齢化に伴うお墓の無縁化や環境への関心の高まりから日本では樹木葬に対する関心が高まっています。
日本で最初の樹木葬墓地が認可承認された1999年ごろから世界の他の国々でも樹木葬は注目され始めました。
アジアでは中国、韓国、台湾などの国々で人口集中と都市開発による土地需要の課題が生じています。
これらの国々の政府は対策の一環として、「火葬」「自然葬墓地」「散骨」「樹木葬」などのお墓の無形化を奨励しています。
さらに、アジアの一部の国ではお墓の無形化は国策として進められ、法的な制度も整いつつあります。
しかし、伝統的な埋葬や葬送を重んじる人々の感情はかならずしも政府の思惑通りには行かないようです。
数ある「お墓の無形化案」の中で一番受け入れやすいのが墓標として樹木が残る樹木葬のようです。
欧米では自然環境に配慮して自然に還るというコンセプトの「Green Funeral」「Green Burial」 「Natural Burial」への関心が確実に高まりつつあります。
呼び方は異なりますが全て樹木葬かそれに準ずるものです。
アジアの国々
韓国
韓国の従来型の埋葬法は土饅頭型の土葬でした。
限られた領土の中で山全体が墓地として利用されている地域もあります。
1990年代から病院に併設した火葬場が増えると同時にこれまでの土葬から火葬の割合が上昇しました。
火葬率の上昇に伴い納骨堂が建立され利用率が上がっています。
しかし土饅頭型の土葬と同様に、納骨堂にしても土地、スペース、管理棟が必要です。
韓国政府は土葬や納骨堂の土地利用による弊害を防ぐ為に2008年に自然葬制度を導入しました。
韓国の自然葬制度とは、火葬後に収骨できる「骨片」ではなく散骨可能な「骨粉」を樹木や草花や芝生の下に埋葬することです。
韓国政府は芝生への散骨を奨励しているようですが、遺族に人気が高いのは樹木葬といわれています。
中国
中国では火葬場付きの葬儀場の75%が国営です。
お墓も殆どが国営の共同墓地になります。
国営墓地では従来型の夫婦墓地が多いものの、近年では花壇に納骨する花葬や樹木の根元に埋葬する樹木葬や海への散骨を奨励しています。
しかし、保守的な国民性により応募者は極めて少ないようです。
中国ではお墓は忌み嫌われる場所として夜は近づかないのが原則です。
墓参に訪れる人も日本や韓国に比べ少ないようです。
従来型の石塔のお墓でさえ忌み嫌われているので、散骨や樹木の下に埋葬するという方法はお国柄敬遠されるのかもしれません。
台湾
台湾では都市計画と墓地との関係や、地方を中心に根強く残る伝統的な葬送文化や家族構成の変化が微妙に影響しあった埋葬事情になっているようです。
都市計画に基づき、スペースが必要な従来型の墓地から納骨堂式に移行する過程の中で、自然葬というコンセプトも出てきています。
しかし独特の葬送文化で「家の一門の大規模な墓地」という概念と、風水に基づき各所に存在する濫葬墓地が都市計画の大きな妨げになっています。
ちなみに台湾の骨壷は日本のように抱えられる大きさではなく小学校低学年が立ったまま入れるような大きなサイズの瓶状のものです。
ですから納骨堂といってもかなり広大なスペースが必要になります。
家の一門が担う大規模な墓地を大切に思う台湾では政府が自然葬(樹木葬を含む)を啓蒙しているにもかかわらず人気はあまり高くないようです。
ヨーロッパ・アメリカ
イギリス
イギリスでは1990年初旬にNatural Death Centreという団体が設立され自然葬に適した処理方法のガイドラインを策定しています。
自然葬のコンセプトである「自然に優しい死」に対する共感が高まり、現在ではイギリスの樹木葬墓地は公営・民営を合わせると300箇所もあるということです。
イギリスで最初に開設されたカーライル森林墓地では広大な敷地に木が植えられた後に埋葬が行われます。
墓標は無く、レンガで囲まれた静かな瞑想空間にロウソクの火が灯されており参拝者はその空間で故人と向き合います。
樹木が植えてある敷地に入ることは出来ません。
イギリスでは自然葬に関わる倫理規定も策定されています。
イギリスでは樹木葬や参拝者が樹林を含む生態系に影響を及ぼさないように厳しい規制を設けています。
ドイツ
深くて豊かな森が多いドイツでは墓地に森を作るのではなく森の中の大きな木の根元に埋葬する権利を得て墓地にします。
ドイツでは2001年に樹木葬に特化した「ラインハルトの森」が開設されました。
ドイツの樹木葬墓地は生前契約が原則です。
また、森には手を入れずそのまま維持することや環境や生態系に配慮して限られた分解可能な素材のみを使用することなどの規制があります。
スイス
森と湖の国スイスでも樹木葬の人気は上昇しています。
10年間で50以上の森が樹木葬墓地になりました。
スイスでは1990年代に開設した「フリートヴァルト(安らぎの森)」が最初の樹木葬墓地でした。
ドイツと同様、森の中の樹木の根元に埋葬する形で、希望すれば埋葬後に故人の名前入りのタグを木につけることができます。
樹木葬の森は立ち入りが自由で散歩を楽しめます。
アメリカ
ヨーロッパに比べ、やや出遅れた感が否めないアメリカですが、アメリカでは西海岸で1996年に墓地を生物多様性保持の為の聖域(自然保護区)にするというコンセプトから樹木葬が始まりました。
自然葬墓地を自然保護区として維持する活動は全米で注目を集め、現在では全土に広がりつつあります。